自然とわたしたちのくらしU授業記録

=「アスワンハイダム」は、本当にエジプトの国を豊かにしたか。=

豊小のろうかに掲示されている「時事フォト」という新聞にナイル川に建設された「アスワンハイダム」の記事が出ていた。
次のような内容である。

ナイル川開発と文化遺産 ─────古代と現代が共存 ─────
「古い歴史を守りながら、近代化進めるエジプト」 │

エジプトは「ナイルの賜物」といわれたように、ナイル川によってつくられた国です。
人々はナイル川の水を利用して、何千年もの間、農業を行い、高い文明をつくり上げました。
くりかえし起こる洪水で流されて来る肥えたどろ水が、農業をさかんにしましたが、 │
現代エジプトは、洪水の被害をさけるためダムをつくり、なかでも世界最大のアスワンハイダム
は、農地を広げ、電力を生み出し、近代国家エジプトに大きく役だっています。


「暴れたナイル川もダムで大きな恵み」
20世紀の土木技術の最大結晶、アスワンハイダムは高さ約111m、長さ3600m、頂上幅 40m、基底幅180m。ナセル湖に貯水された水は、農業用水や発電に利用。


神殿などをダム建設による 水没や洪水から救う

アブ・シンベル大神殿の遺跡をはじめ、人類が誇る重要な文化遺産は、エジプトの呼びかけにこたえたユネスコの国際的募金運動によって救われ、安全な場所に移築され、ダムと共存している。

この記事を読むと、アスワンハイダムの建設は、人間の文明の力のすばらしい成果であったように見える。
だが、一方で、「アスワンハイダムの建設は、20世紀最大の愚挙(おろかなできごと)だった」という意見もあるのだ。真実は、どちらなのか……?
授業というより、私の話を聞かせたというものだったが、その概略を記録しておく。


【授業記録】
 
T 今日は、ナイル川の勉強をします。ナイル川は、いったいどこにある川かわかる?  
C エジプト  
T そう、地図で調べてごらん。  
(調べる)  
C 青ナイルと白ナイルがある。  
T (黒板にナイル川の略図を書く)  
黒板を見て下さい。  
ナイル川の下流には、エジプトという国があります 
みんな、エジプトて知ってるかな ?  
Cs 聞いたことある。  
聞いたことない。  
T エジプトていったら、何、思い浮かべる?  
Cs さばく  
ピラミッド。スフィンクス。  
T そう、あのピラミッドで有名な。  
本当に人間が作ったんだろうか、と思うほどでっかい王様のお墓がありますね。  
あのエジプトは、世界で一番古く人間の文明が栄えた所の一つです。  
大昔から今まで6000年間ずっとこのエジプトと いう国は、栄え続けてきた。
なぜ、そんなにも長い間、この土地の文明が絶えることなく、栄え続けてきたかというと、
C ナイル川のおかげ
T 実に、ナイル川のおかげだった。なぜか。
少し先生の話を聞いて下さい。
ここに白ナイル川がありますが、この白ナイル川は途中てものすごい大湿原、木や草が生い茂った所を通ります。
そこを通る間に、木や草が枯れてたまった腐食土をいっぱいにすいこんで流れてきます。
一方、青ナイルは、あたりの山の土をけずりとって流れてきます。そうすると、ここで合流したナイル
川の水は、うんと肥えた栄養のある土と、粘土のような土を両方合わせて流れて来ます。
それが、毎年7月ごろ、上流で大雨がふり、洪水になって押し寄せてきます。
洪水といっても前に勉強したように、じわじわとくるんですね。そして、このあたり一帯に肥えた土を置いていく。
そうすると、洪水が引いたあとには、洪水が持って来てくれた土と、後に残った水とで、とても耕しやすい土地ができる。
そこに小麦や、いろんな作物を植えて、いっぱい収穫できた。
Cs いいなあ。
保 手間はぶけるやん。  
T そうそう、肥料なんてやらなくてよかった。  
ただ、洪水が来るのを待って、種を落とせば、いっぱいできた。  
それが、6000年間つづいた一番大きなもとなんです。  
で、そういう所なんですが、たまたま、こんなニュースが出ていました。  
(時事フォトをみんなに見せる)  
何をしたかというと、このナイル川に「アスワンハイダム」というダムを作った。地図に出てるかな。  
Cs のったある。  
T なぜ、ダムを作ったかというと、  
世界でも最も大きな川に世界最大のダムを作ると莫大な電力が起こせる。  
Cs 水力発電や。  
T どのくらいの電力が起こせるかというと、一年間に100億キロワット。  
Cs わあっ  
T 日本で、一番大きい黒部第4ダムが、400万キロワットぐらいですから、比べものにならない。 
100億キロワットという莫大な電力を使って、工業が起こせる。やっぱり、農業だけではだめだか らね。
それから、農業では、どうか。
今までは、洪水を待ってしか、できなかった。ところが、ダムを作れば、一年中作物が作れる。
一年に1回しか取れなかったのが、2回も3回も収穫できるようになる。
力 ちょうどぬくとい気候やし。
T さらに、もっといいことには、このダムにためた水をあたりの砂漠にひけば、砂漠が耕せる土地にな
る。
すばらしい計画ですね。電力によって工業がおこせる。農地は広がる。作物も今までの2倍も3倍もと
れる。
そういうすばらしい計画だということでやったわけですね。
このあたりには、昔の大事な遺跡もあったんですがそれを動かしてまで、ダムを作った。
で、その結果がどうなったかというと、ここには、
「世界最大のアスワンハイダムは、農地を広げ、電力を生み出し、近代国家エジプトに大きく役だっていま
す。」と書いてあります。
これが、一つの見方です。

人間が文明の力で、自然を作り変えたわけですね。 
そして、自然をもっと人間に都合のよいものにしようとした。それをすばらしいことだと見る見方があるわけですね。  
ところが、一方で、このダムを作ったことは、20世紀最大の馬鹿なことだったという人もいます 
この新聞はすばらしいといっていますが。  
なぜか。それをこれから、言います。  
 
ダムができて、確かに収穫は2倍3倍ととれるようになりました。が、やがて、がたんと、とれなくなってしまいました。  
 なぜか。  
C わかった!  
幸則 そこに水がたまるようになって、栄養のある土がいかんようになった。  
Cs うんうん。  
智士 いい土がダムで、ばーんと止まってしまう。  
大輔 洪水もでえへん。
T そう、洪水はでなくなった。そして、今までにごっていた水がきれいになりました。
だけど、そのかわり、栄養をふくんだ腐食土は、ダムにたまるようになりました。
そしたら、今まで肥料なんてやらなくてもすばらしい収穫があったのに、化学肥料をまかないと育たなくなってきた。
C ほしたら、金がかかるやん。
化学肥料買わんならん。
T その化学肥料をまくのにかかるお金が1年間に1億ドル。
C はあっ!
T その他に、ダムを作る時には予想もしなかったたいへんなことが起こってしまった。
暢子 虫が発生した?
T 何?虫。どういうこと。
暢子 前は、水の中に虫をころすものがあったんやけど、それが、止められて、なくなった。
T それ、暢子、何かで読んだの?
暢子 いや、むちゃくちゃで。
T それ、当ってるんです。とれだかの問題とは、別ですが、人間の命にかかわるおそろしい問題がおこったんです。   
実は、このエジプトあたりには、「住血吸虫病」という伝染病があったんです。   
そのビールスが人間の身体に入ると肝臓にやどって繁殖し、脳にも入って頭がおかしくなるか、苦しみもだえるというたいへんな病気です。   そういう病原菌が、このあたりに住むかたつむりに住んでいた。   
だけど、ダムを作るまではそんなにひどくひろがらなかった。
なぜか。   
裕幸 かたつむりについてるばいきんがな、ナイル川から流れてくる水の成分で殺される。   
T うん。成分ではなく、洪水のときに、わあっと水がおし寄せると   
Cs 流される   
T 流されたり、埋まったりしてかたつむりがしんでしまった。だから、そんなにひろがらなかった。  
ところが、ダムができて、洪水がなくなったら、  
流れはゆるやかで、しかも温かい。だから、かたつむりがわあつと増えた。   
その結果が、ダムを作るまでは、250万人ぐらいが菌を持っていると言われた。
ところが、ダムを作ったあとは1400万人もの人が病気になってしまった。
力 ひさんなことばっかりやん。世界一馬鹿なことや
T で、さっきのことにもどります。
養分のある土が来なくなっただけじやなくて、たいへんなことが起こった。さあ、わかるかな……
C 暑すぎてからから?
T 水は流れてくるんだけどね。
実は、これだけ長い距離を流れてくる間にはね、塩、塩分がとかされてくる。それが、たまってくるんです。
でも、洪水がおこってたときは、洪水が塩分も洗い流してくれた。
ところが、ゆるやかな流れになったために、塩がどんどんたまり始めたんです。
塩がたまった土地は、もういっさい作物は育たない。
そして、いったん塩がたまった土地は、もうその塩を洗い流すことは、ほとんど不可能だそうです。
塩がたまった土地は、もう砂漠になるしかないのです。
力 予想外やん。砂漠を緑にしようとしたのに。
真ひと メソポタミアとおんなじやん。  
T そう。真ひとが今いってるのはね、エジプトに文明がおこったころ、その他に、メソポタミアという 
ところと、インドと、中国でも文明がおこったんです。  
C (メソポタミアを地図で調べる)  
T エジプトと並んで栄えていたメソポタミアがなぜ、ほろんだかというと、原因は、そこもエジプトと同じで、川のおかげで、文明が栄えていたんだけどその土地に塩がたまり始めたんです。  
その土地は、今アメリカが大規模な農業をやってるけど、それを上回るぐらいの収穫があったんだけど、塩がたまり、砂漠になって、人間が住めない土地になってしまったんです。  
今、エジプトは、第二のメソポタミアになる危険性をもってるんです。  
裕幸 自然に逆らうであかんのよ。  
T うん。前の時間のことと合わせて考えてほしいんだけど、人間の力を過信し、自然を自分たちの都合のよいように変えようとしたことが、逆に大変な仕返しを受けることになってしまった。  
 
ただね、このダムを作ることは、ある意味ではしか たのないことだったの。
アフリカは、昔は、人の来ない土地だったんだけど、そのうちイギリス人などが入り込んできた。
そして、ナイル川の上流の森林などをどんどんきって使い出したんです。その結果今まで山の木のおかげで一気に流れなかった水が、一気に流れ出すようになった。だから、洪水も昔のような洪水ではなくて、日本型の恐ろしい洪水になってしまったんです。
だから、ダムを作って洪水をとめなあかんようなことになってきてしまったわけなんです。
C 結局自然に逆らうであかんのや。
T  実は、アスワンハイダムを作る前に一つダムを作ったんです。アスワンローダムというのを。
そのアスワンダムはどうなったか、というと、上流からの土砂で埋まってしまった。だから、もっとばかでっかいダムを作れば、埋まらないだろうということでこのダムを作ったんです。
結局人間の欲がナイル川のめぐみをこわしてしまったんですね。

【学習後の感想】  
 
青山亜紀子  
昔のままにしておけばよかったのに、よくが出て、 
自然にさからったばかりに、大変なことになってこわ 
いなあと思った。やっぱり、自然にさからったら、大 
変なことになるのだなあと思った。  
 
山田真人  
ぼくは、ナイル川がおこったと思う。自然を自分たち 
のものにしようと思ったからだ。  
 
西山善崇  
ぼくは、自然にさからったら、こんなにもちがうとは 
おもわなかった。しんげんみたいにさからわんとした 
らいいとわかった。ダムを造るとこんなにもちがうと 
は思わなかった。  
本田幸則  
ぼくは、前勉強したときもこうずいがふえるようにな 
ったとならったし、エジプトもダムを作ったから、6 
000年のれきしをとじようとしているから、自然を 
こわしたり、自然にさからったらあかんと思う。  

藤谷明子
今日、先生の話を聞いて私は、最初の木を切ったこと
から、6000年の歴史にきずをつけることになった
と思います。ダムのことでよいという人と、悪いとい
う人がいるけど、私は、自然にさからって、被害がで
てきたのでばかだったと思います。
藤森真人
自然というのは、ちゃんとバランスよくできているの
に、人間はそのバランスをこわしたら、とんでもない
ことになるとわかった。
加藤和幸
エジプトも日本も自然にさからったから、ばかなこと
がおこったと思う。みんな、自然にさからわなかった
ら、そんなことにはならないと思う。
青山哲郎
ちょっとよくた出してやると、逆に自然から、バチを
あてられるから、自然にあまりさからわない方がいい
ことがわかった。