プール監視に行ったついでに
 6月初めから始まった水泳指導。危険防止のため、フリーが監視に立つことになっている。
 それで、4年生の水泳の時間に監視に行った。
 クロールの練習をしている。指示にしたがって、列ごとに一斉に泳いでいる。
 しばらく見ていると、中に二人ほど、みんなの後を歩いている子がいる。何度か練習が繰り返されるが、顔をつけるのがこわくてふしうきもできないのだろう、ずっと歩いている。
 全体指導している先生にも、その二人は気になっているのだが、個別指導する余裕がない。
 それで、「ちょっと、あの二人だけ見てみようか。」と声をかけ、その二人を小プールに呼んだ。「鼻も耳も目もこわかったらふさいでいいから、つけられるところまでつけてごらん」
と言ってやらせる。二人とも鼻の先をちょっとつけただけで、顔を上げてしまう。
「息さえしなかったら、絶対水は入ってこうへんのやで。もし顔をつけて痛くなったら、百万円やるで。思い切ってやってみ。」
とそそのかして、またやらせる。女の子Aちゃんの方が思い切って耳の近くまでつけている。
「どうやった?痛かったか?」
「ううん。」
「ほれみてみ。だいじょうぶやろ。今は、Aさんの方がよかったな。もういっぺんやってみて、S君、よう見ときや。」
と言って、Aさんにやらせ、S君のライバル心をあおってやる。そして、S君にもやってもらう。今度はさっきよりだいぶつけられる。でも、まだほんの一瞬。
「こんどは、顔つけんでいいで、どれだけ息止められるかやってみ」
と言って、空中で息止めをやらせてみる。20近く数える間止められる。
「水の中かて、息止めてたらいっしょやろ。こんどは水の中で3つ数える間だけがまんしてみ。」
と言ってやらせる。20も止めていた自信があるから、3つぐらいはすぐできる。少しずつふやして、10近くまでがまんできるようになる。
その次は目を開ける練習。
「先生が水中で出すグーチョキパーを当てるんやで。」 
と二人に競争させるように当てっこゲームをする。一瞬目を開けて、何とか、当てられるようになる。
「どうや、目開けたら痛くなったか?」「ううん。」「ほやろ、目開けても絶対いとうならへん。今度は、グーチョキ二つ連続で出すのを当てるんやで」
と、目を開ける時間を延ばすためのゲームをやる。
そんなことを10分ほどやって時間が来てしまった。

  それからしばらくたって、また4年生の監視に行く機会があった。この前顔もつけられなかったAさんが、どぶんと 体ごと沈めるところまでできるようになっている。
「ようできるようになったなあ。」
とほめる。
  もう一人のS君は見学している。
「なんやあ、この前あんなにがんばってたのに。」
と言うと、「ほんでも、顔10ぐらいつけられるようになったで。家でも練習したんや。」
と言う。
 見ていると、Aさんはまだふしうきができないので、相変わらず歩いている。
 それで、また、小プールで個別に見ることにした。
 頭を全部つけるところまでできるようになっていたので、そのおさらいをした後、
「じゃ、きょうは、水の中でワニさんになる練習やで。
そーっとゆっくり沈んでプールの底に手をついてみ。がんばったらあかんで。そーっとやで。」
と、脱力を意識させ水中でワニのかっこうにならせる。自然と足ものびていく。
「よーし。こんどは、片方の手だけはなしてみ。」
 と片手で支えるワニをやらせる。反対の手でもやらせる。
「じゃ、今日の卒業テスト。ほんの一瞬でいいで、両手をぱっと底からはなしてみ。こわかったらすぐついていいから。」
といってやらせる。ほんの一瞬だが、手を離し水中に体がうかぶ。そしてそこで時間になる。
「よっしゃ、もうだいじょうぶ。あとは、くりかえし、練習や」
  Aさんも、見学で、私のまわりに集まって見ていた子どもたちもにこにこしていた。できないことができるようになる。それはほんのささいなことでも、子どもにはすごくうれしいことなのだ。
  水泳は子どもを育てるほんとにいい教材だといつも思う。