=だめ教師の教室にこそドラマがある=
「ワルがきのつくったプレゼント」

   わたしのよめさんも小学校の教師をしている。教師歴20年からのキャリアがありながら、あんまり学級経営がうまくいったためしのない、いわゆるダメ教師である。
 彼女か゛今年担任している三年生は、一年生から学校の内外で評判のたいへんな学級らしい。わずか20名あまりの中に、さまざまな家庭的問題をかかえた子どもたちが十指にあまるぐらいいて、もう毎日すざまじい状況なのだという。朝から教室にいないy君、自分の思いが通らないと1時間でも泣きつづけるm子ちゃん。不登校の姉の影響で学校で落ち着けないt君。気に入らない子の机を廊下まで放り出してしまうというs子ちゃん。そしてボスのs君。毎日、晩酌しながら彼女の話を聞いているうちに、私もクラスの半数以上の子の名前を覚えてしまったほどである。
 そんな彼女か゛「今日、ちょっと不思議なことがあったンよ。」と言ってこんな話を聞かせてくれた。
……朝、例によってボスのsが暴れていた。sはy君の机の中からあるものを取り上げて、「返して!」とy君がいくら言っても返さず、自分のものにしてしまった。その品物は、いつも教室を抜け出して障害児学級へ遊びに行っているyが、1学期に作って机の中に入れっぱなしにしていた父の日のプレゼントだった。
 放課後、ふと見るとsが何やら作っている。朝yから取り上げた父の日のプレゼントを真似て一心に画用紙を折っているのだった。もちろん、その画用紙は教師の机から勝手に取ったものだが……。隣のクラスの悪友のr君がきて「おい、もう帰ろうぜ」と声をかけてもふりむきもせず折っている。
 実は、s君の母は、交通事故に遭い、入院中て゛、母子家庭のs君は叔母の家に預けられている。いつもきびしい母か゛入院して、「思いっきり暴れたるんや。」と言っていたs君が、本音のところでは、どんなに切ない思いでいたか初めて見えたようで、その姿を見ているうちに涙が出てきたという。
「sちゃん、飾りにこのシール使ったらどうや」と引きだしの中のシールをやると、「うん、ありがと」といつもと全然違う素直な声て゛受け取り、丁寧に貼り終えた。そして、そのプレゼントを大事そうに教科書の間にはさんでかばんに入れると、
「さいなら」と帰っていったという。

 教師に向かって「あほ、ぼけ!」と悪態をついている姿も、一心に母へのプレゼントを折る姿も含めてsという子どものあり様なのだ。
 ダメ教師の教室には、まるごとありのままの子どもか゛いる。
 彼女の話を聴きながらそんなことを思った。上手に学級をまとめてしまう教師の教室て゛は見えないものが、ダメ教師の教室で見える。
 そんな小さなドラマに励まされて、今日もうちのよめさんは学校へ出かける……